【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「おい、無視するなよ。感じの悪い店員だなー…」
振り返ると、そこにはやっぱりラフなジーンズを履いている奏の姿。
ここ最近毎日のようにこれだ。出勤するや否や奏はこのショッピングモールに顔を出すようになった。
そして決まって客を装い私へと話を掛けるのだ。
「購入するつもりのない人はお客様なんかじゃありません」
その言葉に大きな目をくりくりと瞬かせながら、ムッとしたように口を結ぶ。
そして大きな声で叫びだす。
「すいませーん!ここに感じの悪い店員さんがいまぁーす」
一斉に注目が集まる。
「ちょっとちょっと、止めてよッ」
慌てて口を押えると、大袈裟な声を立てて笑う。…だから目立ってしまうと言うのに。
そうでなくってもだ。近頃パートさん内で噂になっているのだ。イケメンの男が望月さんに毎日のように会いに来ている、と。
奏でも奏で遠慮なく私が表に居なかったら、その辺にいる店員さんに望月さんはいますか?と訊くからこっちは迷惑をしている。
私が近々結婚するというのは既に社内で話題になっていた。婚約をしているのに違う男?!との誤解を解くためにあれは婚約者の弟だと言い訳をした。言い訳も何も、弟なのは事実なのだが。