アイツの溺愛には敵わない
「実は、その時も考え事をしていて全く聞いてなくて……」
今日一日、何やってたんだって呆れてるだろうな、高塚くん。
恥ずかしい…。
「そうだったんだ。なんかさ、昨日の夜に学校周辺で不審者が出たらしいんだ」
「えっ、不審者…?」
「うん。仕事帰りの女性が見知らぬ男に声掛けられて、しばらく後をつけられたんだって」
「そ、そう……」
怖いな…。
その状況を想像するだけで背筋が凍りつく感覚がした。
「警察もパトロール強化しているみたいだけど、特に女子は帰宅する際に、出来るだけ二人以上で帰るように言ってたよ」
そっか、それで一緒に帰ろうって言ってくれたんだ。
綾芽ちゃんは今日も大事をとってお休みしているし、颯己もとっくに帰っちゃったし。
……って、なんでそこにアイツが出てくるのよ。
関係ないじゃん。
思い浮かんだ颯己の姿を頭の片隅へと追いやった。
「琴宮さん、めちゃくちゃ眉間にシワ寄ってるけど大丈夫?」
「う、うん!えっと、それじゃあ…駅までよろしくお願いします」
ぎこちなくお辞儀すると、高塚くんは笑顔で頷いた。