アイツの溺愛には敵わない
「あれ、真浦じゃん」
高塚くんの口から飛び出した思わぬ名前に、靴を履いていた私は顔を上げる。
生徒が使用する傘立て。
そこに浅く腰かけてスマホをいじっていた颯己がこちらに視線を向ける。
目が合った瞬間、心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
何よ、その不機嫌さを前面に出したような表情は。
それに、なんでこんなところに居るの?
射るような眼差しに対抗して睨み返すと、颯己は私たちの近くへとやって来た。
「もう帰ったとばかり思ってたからビックリしたじゃん。ここで何してたんだよ」
いつものように気さくな感じで話し掛ける高塚くん。
でも、颯己はその言葉に反応することなく私を見つめた。
「ほらね、思ったとおり」
「………」
「だから警告したんだよ、俺」
不機嫌な表情の中に悲しげな色を滲ませる颯己。
戸惑っていた次の瞬間。
「あっ……」
手を握られたかと思うと、颯己の傍に引き寄せられた。