アイツの溺愛には敵わない

今まで色んな颯己の表情を見てきているはずなのに。


こんな風に意を決したような真面目な顔を見るのは初めてで。


目が逸らせない。


「俺の彼女になって?」


ビックリするぐらいの優しい声が私に向けられる。


何か言葉を返さないといけないのに…。


この短時間に起こったことに対する衝撃が大きくて声が出てこない。


なんだか、喉に蓋がされているみたいだ。


どうすることも出来ないまま沈黙していた時、玄関のドアの鍵を開ける音が響く。


多分、お母さんだ…。


その音に驚いたのは私だけじゃない。


颯己の肩が小さく跳ねて、私の腕を掴んでいた手が離れる。


その隙に、慌ただしく自分の部屋に入った私。


鍵をかけると、その場にペタンと座りこんだ。


「ただいま~。颯己くんも今帰って来たところなの?」


「はい。学校で友達と喋っていたら帰りが遅くなっちゃいました」


「あら、そうだったのね~」


ドアの向こうで繰り広げられている会話。


颯己の声に動揺や焦りは一切なくて、普段どおり。


なんで何事も無かったかのように振る舞えるの…?


私は冷静になんかなれないんですけど…。


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