アイツの溺愛には敵わない

『……ほんと、目障り』


不愉快だと言わんばかりに思いきり歪んだ佐々野さんの表情。


刺すような視線に肩をすくめた途端、左側の鎖骨の辺りをドンと突かれた。


『ただの幼なじみのくせに、彼女気取りで偉そうに説教してんじゃねぇよ!』


少しよろけた私の胸ぐらを掴んで声を荒らげる佐々野さん。


殴られるのか、叩かれるのか。


恐怖で全身に鳥肌が立った、その時。


空き教室の扉が勢いよく開いたかと思うと、颯己が中に入って来た。


『お前ら、何やってんだよ』


佐々野さんも取り巻きの女の子たちも目を見開いて驚いていたけれど、私は驚きよりも安堵の方が強かった。


“颯己が来てくれて良かった”って。


胸を撫で下ろしていた。


そんな気持ちが一瞬にして消えるなんて思いもせずに。


『その手、さっさと離せ』


低くて冷たい颯己の言葉。


動揺したのか故意なのかは分からないけれど、佐々野さんは私の体を突き飛ばすようにして胸ぐらから手を離した。


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