アイツの溺愛には敵わない
バランスを崩した私。
そのまま、近くに置かれていた机や椅子を巻き込んで派手に転倒するはずだった。
だけど、その直前で颯己が私の体を受け止めるようにして守ってくれたのだ。
だから、私は痛みも衝撃も殆どなく無傷だった。
『はーちゃん、大丈夫?』
『私は大丈夫。颯己は?ケガしてるんじゃない?』
『俺は平気だよ』
体をゆっくり起こした颯己は微笑んだけど、無理して笑ってるのが直ぐに分かった。
平気なわけない。
机や椅子に体を打ちつけながら、私を庇うように倒れたんだから。
相当、痛かったはずだ。
『颯己くん、だっ…大丈夫?まさか、こんな風になるとは思わなかったの。本当にごめんなさ……』
『謝る相手、俺じゃないだろ』
動揺しながら近付いてきた佐々野さんを、颯己は軽蔑するような冷たい目で睨みつけた。
『琴宮さん、あの……ごめんなさい』
佐々野さんが口にした謝罪の言葉は、ようやく聞き取れるぐらいの小さな声。
眉間にシワを寄せて、不満げな表情。
仕方ないから謝っておこう的な雰囲気が伝わってきた。