アイツの溺愛には敵わない
捻挫したのは利き手。
だから、普段なら難なく出来ることも苦戦していた。
そんな颯己が少しでも快適に日常生活を過ごせるように、私は出来ることを片っ端からやった。
荷物を持ったり、授業のノートの代筆をしたり、他にも色々。
颯己は『自分で出来るから大丈夫だよ』って言ってくれてたけど、それだと私の気持ちがおさまらなかった。
だって、颯己が捻挫したのは私が佐々野さんの怒りを助長させるようなことを言ってしまったから。
突き飛ばしたのは佐々野さんだけど、その根本的な原因を作ったのは私だ。
自分が代われたらいいのに。
罪悪感に苛まれながら過ごしていた、ある日の放課後。
授業で分からなかったところを職員室で担当の先生に教えてもらった後、教室の前まで戻ってきた時だった。
『真浦、右手の捻挫どんな感じ?』
『だいぶいいと思う。来週にはテーピング外せるんじゃないかな、きっと』
そっと教室を覗くと窓際で颯己と友達の男の子がお喋りをしていて…
話題は、ちょうど捻挫のことだった。