アイツの溺愛には敵わない

『そっか良かった。でも、利き手だと何かと不便だよな』


『……正直、辛い』


その言葉を聞いた瞬間、咄嗟に教室を離れた私は、暫く校舎の中を宛もなく歩き回った。


滲む視界を何度も拭いながら。


あの悲しげで苦しげな表情は、今も忘れられない。


私の前で“大丈夫”って微笑んで、気丈に振る舞ってくれていたのは、颯己の優しさなんだと思い知った。


その数日後の休日。


私は、この展望台に来て今後の颯己との関わり方を考えて結論を出した。


アイツが二度と辛い思いをしないように。


アイツに迷惑を掛けないように。


距離をとって、少しずつ傍を離れようと。


「……」


でも、なかなか上手くいかないや。


颯己と過ごす時間は増えちゃったし、それに……好きになっちゃった。


この気持ち、消せるかな。


ううん、頑張って消さないと。


とりあえず、家に帰ったら颯己に昨日の返事をしよう。


ちゃんと断らなくちゃ。


心の中で頷いていると、冷たい風が吹き抜けた。


少し肌寒くなってきたな…。


何か羽織ってくれば良かった。


腕を擦っていたその時、後ろから見覚えのあるカーキ色のパーカーが私の肩に掛けられた。

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