アイツの溺愛には敵わない
「本当はこっちにキスしたいけど、それは二人きりになった時にするね」
私の唇を指差して満足げに微笑む颯己。
その言葉にハッとして、慌てて周囲に視線を向けた。
そうだ…。
今、展望台に来ているんだった。
利用客の殆どが、景色じゃなくて私たちをチラチラと見ている状態で。
ここまでのやり取りを見られていたんだと察した途端、一気に顔が熱くなる。
アタフタしながら颯己と距離をとった。
「私、そろそろ家に帰る」
「うん、俺も」
逃げるように展望台から離れて、賑わう公園内を出口へ向かって黙々と進んでいく。
恥ずかしくて今にも顔から火が吹き出しそうだ。
「はーちゃん、顔が真っ赤」
「あ、当たり前でしょ!色んな人に見られてたんだから。っていうか、颯己!」
「ん?」
「周りからの視線があるのを知ってた上で、おでこにキスしたでしょ?」
さっきの口ぶりと微笑みは絶対に確信犯。
眉を寄せて睨むと、颯己は口角を上げて無邪気な笑顔を浮かべた。