アイツの溺愛には敵わない
「せっかくだから、家までゆっくり歩いて帰ろ?」
「ちょっと無理…かな。お腹空いたから、早く帰りたい」
「そう言えば、はーちゃん朝ご飯を食べてないもんね」
それもあるけど、自分の部屋で少し落ち着きたいのが一番の理由。
さっきのキスに続いて、手も繋いで。
心臓への負荷が半端ないから。
「じゃあ、すぐに帰って昼食にしよっか。俺もお腹が空いてきたし」
「えっ」
「それに、家に帰れば二人きり。その方が、はーちゃんとの時間を楽しめるもんね」
この感じだと、一人で部屋に籠る時間を確保するのは難しそう。
帰宅を急がない方が良かったかな…。
「はーちゃんのお母さんが作った美味しいカレーを食べるのも楽しみ。今日はシーフードカレーって言ってたよ」
声を弾ませながら嬉しそうに笑う颯己に、私も思わず笑みがこぼれた。
まあ、いっか。
一人の時間が作れなくても。
せっかくの“ふたりきり”だもんね。
心は落ち着かないだろうけど、これは颯己が好きだからこそのドキドキ。
この幸せな鼓動音を噛みしめよう。
手を繋いで歩く帰り道。
私も颯己も笑顔が絶えなかった。