アイツの溺愛には敵わない
「あ、ありがと。元はといえば、颯己が私からバッグを取り上げたから忘れてきたんだけどね」
置きっぱなしとは違う。
まあ、部屋まで持って来てくれたからお礼は言うけど。
空のお弁当箱を取りだそうとバッグに近付いてしゃがむ。
ファスナーを開けようとしたところで、颯己も私の傍にしゃがんだ。
「部屋のドアを開けっ放しにしておくなんて、はーちゃんは不用心だね」
「いつも開けたままにしてるわけじゃないから!今日は、たまたま閉めてなかっただけだし」
「ふーん?」
「っていうか、家の中に居るのは大抵お母さんとお父さんだけなんだから、別に用心も何もないでしょ」
「暫くは俺も一緒に住むことになるよ?」
「だから何?颯己は家族みたいなものなんだし、用心する必要はないじゃん」
「家族、ね……」
含みを持たせるような話し方。
なぜか、颯己は少し悲しげな顔をしていた。