アイツの溺愛には敵わない
「あの、今の電話は……」
「はーちゃんのお母さんからでしょ?」
「えっ、なんで分かったの?」
「通話音量が大きめだったから、殆ど会話の内容が聞こえた」
「……そっか」
テレビもつけてないし、静かな空間だもんね。
こんなに傍に居れば丸聞こえだったか。
「…………」
お互い視線を不自然に逸らして沈黙する。
なんとも言えない気まずい雰囲気に声も出せずにいると、颯己が小さく咳払いをした。
「とりあえず、俺はカップを片付けるね。そのあとは明日提出の課題やろうかな」
「それじゃあ、私は自分の部屋の掃除をしてくるね。他の場所をやってたから後回しにしてたし」
交わす会話も声もぎこちない。
照れくさそうにキッチンに向かう颯己をチラチラと見ながらリビングを出た私。
自分の部屋に入ると、熱い頬を両手で押さえながらベッドの上に座った。
心臓がまだドキドキしてる。
短い時間だったけど、濃密なひとときだったな。
さっきの光景を思い浮かべながら、キスの感触が残る唇にそっと触れた。