アイツの溺愛には敵わない
「ど、どうしたの?」
「琴宮さんの髪、糸くず……かな?何かついてる」
「本当!?」
慌てて髪をあちこち触る。
「えっと、もう少し右かな」
「こっち?」
「うん。そのまま上に移動してもらって」
「この辺かな?」
「あっ、微妙に位置が……」
わりと難しいな…。
バッグの中に小さい手鏡が入ってるから、それで見ながら取る方が早そう。
「高塚くん、ありがとう。私、手鏡を持ってるから自分で確認してみるね」
「 待って、琴宮さん。俺が代わりに取るから、そのまま動かないで?」
「う、うん」
とって貰えるなら、お願いしよう。
高塚くんの方に体を向けて座り直す。
あと数センチで高塚くんの手が髪に届きそう…という時だった。
「糸くずついてるよ、琴宮サン」
後ろから低い声が聞こえてきたかと思うと、髪に優しく触れられる。
振り向くと、颯己が不機嫌そうに私を見下ろしていた。