アイツの溺愛には敵わない
ビックリした…。
気配なさすぎ。
糸くずを後ろの出入口近くにあるゴミ箱に捨てた颯己は、肩に掛けているスクバを荒々しく机に置いた。
「真浦、おはよ~!」
「……はよ」
「眠そうだな。朝、結構弱いのか?」
「……ん」
棘を含んだ声。
機嫌が悪そうな颯己のオーラを察知したのか、高塚くんは“朝が弱いと大変だな”と苦笑いしながら前に向き直った。
普段、男子とは普通に話してるくせに、今の態度は何?
高塚くんは挨拶で声を掛けただけじゃん。
「琴宮サン、いつまで高塚の方に向いて座ってんの?朝礼、もう始まるよ?」
また…!
話し掛けないでって、昨日お願いしたばかりなのに。
一晩寝て忘れちゃったとかじゃないよね?
ギロリと睨むと、颯己はあっかんべーをして私から視線を逸らした。
嫌な感じ。
何を怒っているのか知らないけど、怒りたいのは私の方だよ。
颯己が話し掛けたりするから、周囲の女の子たちが驚いた顔で私たちの方を見てるじゃない。
体を前に向けた私は、目を伏せて心の中でため息をこぼした。