アイツの溺愛には敵わない
「来てくれたんだね」
私の姿を見ると、颯己は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「アンタが手伝えって言ったんでしょ。それにスーパーで買ってきたものを冷蔵庫に入れなきゃいけないし」
「はーちゃんも食材買って来たんだ」
「もしかして、颯己も?」
「冷蔵庫の中の食材を勝手に使うのも気が引けるし、必要なものだけ買ってきた」
別に使っちゃってもいいのに。
「そっか、はーちゃんも晩ご飯作るつもりでいたんだね」
「お母さんの帰りが遅い日はいつも代わりに作ってるから」
「俺、余計なことしちゃった?」
「颯己の厚意を余計だなんて思ったりしないよ」
何か自分に出来ることがないか…って思って、料理をしてくれてるんでしょ?
幼なじみとして、ずっと近くで見てきたんだから、それぐらい分かるもの。
「はーちゃんは昔から変わらないね」
「失礼な。私だって色々変わってるんですけど」
「例えるなら、穏やかな春の日だまりって感じ」
「は?」
「そういう反応すると思った」
颯己は可笑しそうに笑った。