アイツの溺愛には敵わない
また、いきなり触った。
家でのスキンシップを許して以来、颯己は毎日何かにつけて頭を撫でてくるようになった。
しかも、いつも不意打ちだからガードが間に合わない。
私は小さな子どもじゃないんですけど。
不満を抱きながら“はぁ…”と盛大にため息をつくと、室内に声が響いた。
音がやけに反響するのは家具が何もなくなったからかな。
リビングの窓際に座っていた私はゆっくりと周りを見回した。
もしも颯己がどこか遠くに引っ越すことになったら、こういう状態になるんだよね。
「………」
なんで、胸が苦しくなるほど切ない気持ちになるんだろう。
家族みたいな存在だからかな。
でも、お兄ちゃんが大学進学のために家を出た時には、それほど切なく感じなかったのに。
よく分からない。
気を紛らせようと家の中をウロウロと歩き回る。
家具や家電がなくなると広く感じるな…なんて思いながら、颯己の部屋に入った。
もちろん、物は何も置かれていない。
でも、颯己の部屋の匂いは残ってる。
私は大きく息を吸い込んだ。