アイツの溺愛には敵わない
落ち着く匂い。
5才の時に、私がこのマンションに引っ越してきて…
それ以降、颯己の部屋には何度も出入りしてきてるから第2の家みたいな感覚なのかもしれない。
一緒に勉強したり、遊んだり。
色んなことがあったな…。
部屋の真ん中でボンヤリと窓の外を眺めていた時。
「ただいま」
背後から聞こえてきた声。
振り向こうとしたけれど、それよりも先に後ろからギュッと抱きしめられた。
「ちょっと、何やってるのよ」
「はーちゃんこそ、俺の部屋に入って何してるの?」
耳元で囁く颯己。
吐息まじりの低い声は、やけに大人っぽくて。
驚きのあまり肩がビクッと上がってしまった。
「ひっ、暇だから家の中をウロウロしてただけ。そんなことよりも離れてよ!」
体を捩って抵抗すると、お腹に回されていた大きな手がゆっくりと離れる。
「いきなり抱きついてこないで!」
「隙を見せてたはーちゃんが悪い」
颯己は足元に置いてあったコンビニの袋を持ち上げると、意地悪っぽく笑った。