アイツの溺愛には敵わない

「無我夢中でメロンパンにかぶりついてた私なんて、記憶から消してよ」


「絶対にイヤ」


“いいよ”なんて素直に了承するわけないか。


どうせ何回お願いしたって答えは変わらないだろうから諦めた方が良さそう。


小さくため息をついてから、ほうじ茶を一口飲んだ。


それにしても、颯己の観察眼ってスゴいな…。


私の好きな食べ物を見事に把握してる。


対して私は……


颯己の食べ物の好みを知らない。


一緒にご飯を食べる機会だって、今までそれなりにあったのに。


私、颯己のことを見ているようで見ていなかったんだな…。


好きな食べ物、なんだろう…?


ちょっと気になるかも…。


「あっ…あのさ、颯己は食べ物の好き嫌いとかあるの?」


さりげなく聞いたつもりだったのに、不自然なぐらいにぎこちない声になってしまった。


「はーちゃん、俺に興味持ってくれてるんだね」


「別にそういうわけじゃないけど…。好き嫌いとかあるんだったら、お母さんにも情報を共有しておいた方がいいかなと思っただけ。一応、一緒に生活してるから」


なんで、必死に言い訳してるんだろう。


“なんとなく気になった”ってサラリと言えばいいだけなのに。

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