アイツの溺愛には敵わない
颯己の発言や不意打ちのスキンシップが、私の調子を狂わせている原因なのは明らか。
アイツと関わらなければ症状は治まるはずだ。
だけど、同居している今の状態だと一切接しないっていうのは難しい。
“家の中でも私に触れるの禁止、会話も禁止”に出来ればいいんだけど…。
それを颯己に言おうものなら、学校で他人のフリをしなくなるだろうから言えない。
何か良い解決策はないかな…。
「あれ?あそこに居るのって真浦くんじゃない?」
俯き加減で歩いていた私は弾かれたように顔を上げる。
綾芽ちゃんが指差すのは、数メートル先の体育館へと続く渡り廊下。
その真ん中辺りで女子と話をしている男子。
こちらに背を向けているから顔は見えないけど…
あれは間違いなく颯己だ。
「うーん、そうっぽいね…」
アイツとは赤の他人設定なのに“あの後ろ姿は絶対にそうだよ”なんて断言するのは不自然。
そう思った私は、わざと曖昧な言い方でぼかした。