アイツの溺愛には敵わない
「はーちゃん、帰ってたんだ。早いね」
「颯己がいつもよりも遅いんでしょ」
「ちょっと欲しいものがあって買い物してきたから」
ふーん、買い物ね……。
隣の部屋にスタスタと向かう颯己を目で追った。
「それって、一人?」
「うん」
そっか、霧島先輩は居なかったんだ…。
……ん?
一瞬“デートじゃなくて良かった”って言葉が頭の中をちらついたのは、なぜ?
自分の気持ちに戸惑っていると、颯己は私のすぐ傍にやって来て、目線が同じになるように背を屈めた。
「ねぇ、俺を誘ってるの?」
「は?べっ、別にアンタと買い物に行きたいなんて思ってないから!」
「いや、そういう意味じゃなくて…」
颯己が胸元を指差す。
視線を落とした私の目に映ったのは、3つほどボタンを外した制服のワイシャツ。
や、やだ…。
着替え、まだ途中だった…!
一気に恥ずかしさが込み上げる。
私は慌てて両手で胸元を隠した。