アイツの溺愛には敵わない
生まれた熱は、なかなか冷めなくて。
落ち着きを取り戻したのは晩ご飯の直前だった。
お母さんたちに真っ赤な顔を見せずに済んで良かったと思いながら、ご飯を食べ終えて部屋に戻る。
いつもより多めに出された学校の課題をやり始めて一時間ほど経った時だった。
「はーちゃん、入ってもいい?」
コンコンとドアのノック音がした後、聞こえてきたのは颯己の声。
「うん……あっ、ちょっと待って!」
慌てて姿見の前に立って、不自然なところがないかチェックする。
晩ご飯の後はずっと勉強していたから着衣に乱れなんてないのは分かってるけど…
一応、念のため。
大丈夫なのを確認してドアを開けた。
「何か用事?」
「おととい借りた漢和辞典、まだ返してなかったから。ありがとね」
「うん」
さっきの羞恥心が残っているためか、颯己から直ぐに視線を逸らす。
俯き加減で辞典を受け取ろうとした時、私の手に水滴が落ちてきた。
「冷たっ……」
思わず手を引っ込める。
反射的に視線を颯己に向けると、髪の毛が濡れていた。