アイツの溺愛には敵わない
「颯己」
「ん?」
「明日の放課後、ちゃんと霧島先輩の話を聞いてきなよ」
「行く必要ないし、行きたくない」
「でも、ハッキリ断ってないじゃん」
「俺の返事を聞く前に逃げたあの人が悪い」
「それは、きっと先輩にも事情が…」
そこまで言ったところで、颯己は体を180度回転させて、私と向かい合うように座る。
私の手からドライヤーを奪うと、スイッチをオフにした。
「はーちゃんは、俺と先輩をどうしたいの?」
不機嫌そうな顔でこちらを見つめる颯己。
鋭い視線に耐えられず、目線を少し下に落とした。
「せっかくの機会なんだから、ちゃんと霧島先輩と話して欲しいと思っただけ。もしかしたら、波長が合う人かもしれないし」
「合うわけないよ」
「そ、そんなの分からないじゃん。霧島先輩は美人だし、頭もいいし、優しいし。颯己にお似合いだと……」
その時。
話を遮るように、颯己は人差し指を私の唇にあてた。