アイツの溺愛には敵わない
「最後まで聞きたくない」
いつもよりトーンが低い声。
不満そうに口を尖らせている颯己の目は、どこか悲しげで。
思わぬ表情に戸惑っていると、唇に触れていた指がゆっくりと離れた。
「“お似合い”っていうのは、はーちゃん目線で見た印象でしょ。そういう推薦は要らない」
「………」
「付き合いたい女の子は俺自身で選ぶから」
誰に恋をするのかは、颯己の自由だもんね…。
私がとやかく言うことじゃない…。
「お節介な発言だったね。ごめん」
「うん、いいよ。それに分かってるから」
「えっ?」
「何でもないよ」
苦笑いをする颯己。
そんな風に言われたら余計に気になるんですけど。
頭の中を疑問符が彷徨う。
首を傾げると、颯己は私の耳元に顔を近付けた。
「はーちゃんに一つだけ警告」
「ひゃっ、いきなり何!?」
驚きのあまり仰け反る私。
囁かれた余韻が残る右耳を手で覆いながら、距離をとるために少し後ろに下がった。