アイツの溺愛には敵わない
無反応…?
おそるおそるクッションを下にずらして覗いてみると、颯己は私に背を向けて座っていた。
もしかして、“顔を見て欲しくない”っていう私の気持ちを察してくれてるとか?
声を掛けようとした時、颯己は素早く立ち上がった。
「髪もだいたい乾いたから部屋に戻るね。はーちゃん、ありがとう」
私の方に振り向くことなく、ドライヤーを机の上に置いて、颯己は部屋を出て行ってしまった。
声が焦ってたような気が……。
しかも逃げるように行っちゃったし。
見るのも気まずいぐらい、私の顔が真っ赤になってるのかな。
そうだとしても、いつもの颯己だったら何かしら声を掛けてきそうなものなのに。
変なヤツ。
「………」
いや、変なのは私だ。
颯己が霧島先輩と仲良くなってくれればいいなって思ってるはずなのに…
イライラしながら先輩の話を聞いてたっていう颯己にホッと胸を撫で下ろすなんて。
理想と現実の気持ちがちぐはぐで、不協和音を奏でているみたいに心地悪い。
私、何がしたいんだろう…?
熱を保ったままの顔にクッションを押し当てて、ため息を溢した。