アイツの溺愛には敵わない
いや、違う。
颯己が口をつけたのは私と反対側。
だから、間接キスにはならない。
何を焦ってるんだ、私は。
心臓もバクバク鳴ってるし。
波打つ鼓動を鎮めようと胸元をゆっくり擦った。
間接キスなんて、今まで気にしたことなかったじゃん。
昔から、私が飲んでいたペットボトルのお茶を“一口ちょうだい”と言って、颯己が飲むのはよくあることだった。
新商品の飲み物をコンビニで買った時、お互いのペットボトルを交換して味見することだってあった。
でも、こんな風に動揺したことは一度もない。
正直、何とも思ってなかった。
それなのに、今さらどうして?
もしかして私……
颯己のこと……
まさかね、それは無い。
浮かんだ言葉を振り払うように首を左右に動かした。
だって、颯己は弟みたいな幼なじみだし。
家族のような存在なんだから、有り得ないでしょ。
心の中で頷きながら、すっかりぬるくなってしまったココアを一気に飲み干す。
でも、心臓は慌ただしさを保ったままで、暫く落ち着くことはなかった。