でも、さわりたかったよ
ぽかんと口を開けて私は固まっていた。両肩が上がったまま、体のどこも動かない。
「お前は俺のことどう思ってる?」
薄っぺらい風が後ろから吹いてきて、夏服のスカートが少しだけ揺れた。
頭の中に先輩が溢れる、溢れる、つむじからつま先まで先輩でいっぱいになる。
「……おねがいします」
やっとの思いで頭を下げると、あああーと何とも似つかない声が頭の上から降ってきて、私の方も頬の筋肉が緩みやっと息を吐けた。
「マジ良かった!」
真正面に先輩の笑顔がある。夢じゃないし嘘じゃない。
これが現実で、これが幼い私の世界の全てだった。
その日から、先輩は私のものになった。