でも、さわりたかったよ

ねえ、先輩。どうして帰ってきたの。

どうしてここに現れたの。

君はずるい。だって君は何も言わない。

何度も確かめた君の顔が滲んで、右目から流れた涙が左目に入った。

嗚咽が上へと上がってくるのを、唇を結んで食い止めると、うっうっと胸が上下するように鳴いた。




先輩は幽霊じゃないよ。だってここにいる。


君の頬を包んだまま、私は自分のおでこを君のおでこにくっつける。

お互いの鼻先が触れて、胸の奥がじんわりと温かくなって、じんじんと指先まで満たされていく。



魔法みたいだよ。幸せなんだもん。

涙がとめどなく川を作っていく。

だから先輩は幽霊じゃないよ、魔法使いだよ。



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