でも、さわりたかったよ
あっくんは私の様子に少したじろいで、でもまた背筋を伸ばして続けた。
まるで、逃げないと決めていたかのように。
「真帆おかしいよ」
あっくんは真剣な表情で、私の目を見ている。
私の目の奥の真実を、決して見落とさないように注意深く、でも容赦ないほどの鋭い刃を握って、こっちを見ている。
「あっくんは何も知らないでしょ」
「真帆が先輩を好きだったことは知ってるよ。夏休みの間じゅう、話を聞いてたから。でもそれはそれ、でしょう」
「でも今、先輩はいるの。あっくんに見えないだけ」
間髪をいれず突き返す。雨上がりの空気は澄んでいて、息が、しにくい。
「じゃあなんで真帆には見えるの」
「だって私は先輩の……」
言葉に詰まって、思わず目を逸らした。
「先輩の何?」