でも、さわりたかったよ
「やっぱり先輩、あの茶髪はやばいよね。私が、茶色が似合うよって言ったから染めたんだから。先生に怒られたって言ってたけど、絶対私のせいだよね」
「真帆?」
上半身をひねるようにして振り返ると、あっくんが自転車のハンドルを握ったまままっすぐそこに立っていた。
「ダイジョウブ?」
間抜けなその顔に吹き出しそうになって、私は両手で口元を隠した。
あっくんてば、カタコトの外国人みたいになってるじゃんか。
「一緒に学校行こうって言ったのに、先輩、笑って首を横に振るんだよ」
前を向き直して、学校まで一本道の下り坂を目の前に、ぐーっと横に手を伸ばし胸を突き出す。
なんて素晴らしい朝なんだろう。
体が横に伸びて、坂の下に広がるこの街を抱きかかえられそうだ。
春の朝は空気こそ冷たいけれど、あたたかい日差しが辺り一面に平等に降り注いでいて、まるで私たち一人ひとりを優しく揺り起こすようだった。