でも、さわりたかったよ

雨がしとしとと降っていたあの日。


彼女の言っていたファッション雑誌を買いに、私は近所の本屋へ向かっていた。


青信号になったのを確認して進み始めると、横断歩道の向こう側から一つの傘に収まった先輩と彼女が、こっちへ歩いてくる。

先輩は私の目前で彼女の腕を自分の方に引き寄せた。


「お前、こっちに寄らないと濡れるぞ。お前、すぐ風邪ひきそうじゃん。チビだし」


「チビは関係ない!あっちゃんがでかすぎるだけだよ」


すれ違った後も、私は振り返らず、足を止めない。


雨が地面を打つ音が、この体を絶望の隅へ追い詰めていくのを感じた。




――私と同じ背丈で、同じ髪型の、私じゃない、あの人。


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