でも、さわりたかったよ
「俺バイト始めた」
「その髪色でよく受かったね」
「問題ないよ、厨房だもん。駅前の回転寿司の」
電車のつり革を持ったまま、先輩が意気揚々と話している。
彼女は単語帳をぺらぺらめくりながら、そうなんだーと気の無い返事を返している。
「俺、チャリ通じゃん?高校から家も近いし。だからC駅の近くでバイトしたら、お前の塾と近いから、一緒に電車乗れるし一緒に帰れるなあ、って思って」
彼女はぱっと顔を上げて目をきらきらと輝かせ、先輩のブレザーの裾を握った。
「かわいい、あっちゃん」
先輩は得意げに鼻を掻いた。電車が停まり、目の前の席が偶然空いて、先輩は彼女をそこに座るよう促した。
私はずっと見ていた。