でも、さわりたかったよ
「来週のクリスマス何が欲しいの?」
もう暗くなった駅前で、黒い無地のマフラーをぐるぐる巻きにした先輩が言った。
「髪につけるバレッタが欲しい」
赤いチェックのマフラーを同じように巻いた彼女が言った。
「お前、髪おかっぱじゃん」
先輩は首を伸ばし、マフラーから顎を出して笑う。
「伸ばしてるの。モデルのアキナがデザインしたバレッタつけたいから」
彼女は笑い返すことなく、真剣な表情で答えた。
先輩も笑うのをやめて、彼女の髪の間に指先を通す。
「ふーん……じゃあそのなんとかって奴のバレッタ買ってやるわ」
「高いよ?2000円くらいするよ」
「そのためのバイトだろ」
彼女は何も言わず先輩を見上げた。
先輩は、買ったばかりの熱いココアの缶を、彼女の頬に優しく押し付けた。
「あっちゃんは欲しいものないの?」
「俺は……」
人通りの多い中、先輩は彼女のコートを引っ張り抱き寄せた。二人はしばらく見つめ合って、どちらからともなくキスをする。
「ミヅキ」
大切なおもちゃを離さない子供みたいに、先輩が彼女をきつく抱きしめる。
「おんなじ大学行こうな」
彼女も先輩の背中に手を回した。
それが私の見た二人の最後の姿だった。