でも、さわりたかったよ
茶色いローファーに足を入れ、ぺたんこのかばんを肩に掛ける。
あっくんと顔を合わせないよう、いつもよりずっと早い時間。
重いドアを押すと、ひんやりと冷たい朝の空気が前髪を掻き分ける。
少し鼻をすすって、学校の方へと坂道をくだる。
大通りに差し掛かり、思わず立ち止まる。
右手には、いつもの本屋へと続く横断歩道が伸びていた。
先輩を突然連れ去った、この横断歩道。
はしごみたいだ。ふいにそんなことがよぎった。
このはしごを上って高い空まで辿り着かないだろうか。
そこには先輩が……いないだろうか。
そうすれば次は必ず言うから。
言わないといけなかったことを、私はまだ何一つ、言っていないから。
信号なんか目に入らない、私は右に方向を変えて、多くの車が行き交う横断歩道を渡ろうとした。
瞬間、白いエアフォースが視界の隅を掠めた。