でも、さわりたかったよ

耐えきれず泣きじゃくる。子供みたいに。
両手で制服のスカートを握りしめ、顔をぐしゃぐしゃにして。

「先輩が、あの人のものだって、知ってたよ。知ってたけど――」

涙が止まらない。



「でも、さわりたかったんだ」


一度でいいから。
先輩に、触れてみたかった。




先輩がいない世界なんて、私は―――



「私も、つれていって……」





先輩は微笑んだまま困ったように眉毛を下げ、ゆっくりと首を横に振る。

そして何か言おうとして、小さく口を開く。


何も聞こえない。嗚咽が止まらずに上半身が痙攣する。


ばか。ちゃんと聞け。読唇術は得意なんだ。

ぎゅっと強く強くスカートを掴み、歯を食いしばる。




目を凝らして唇を読む。"キ、ミ、ハ。"
でもどうしよう、嗚咽が止まらない。


"キ、ミ、ハ、イキナイト。"
君は生きないと。

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