でも、さわりたかったよ
「え?」
無意識に振り返ろうとしてしまい、あっぶな!動かないでよ!とあっくんは目を見開いて私の肩を強引に戻した。
あっくんが、自殺?
言葉の意味を変換できずに、鏡の中の様子をうかがうと、あっくんは伏し目がちに細い毛束をつまんで、美容師の真似ごとみたいにハサミを縦に入れている。
「駅の雑貨屋でね、アキナのデザインした、あの人気のバレッタ見つけてさ。僕、我慢できなくてこっそり買って、駅のトイレでつけてみたんだよ。でもやっぱ、こんなモンチッチみたいなもっさい頭の僕に似合うはずなくて。僕、やっぱり普通じゃないんだって、そう思うと将来が怖くなって……」
ジョキン、ジョキン。相変わらずためらいのない音が響く。
「死にたい、じゃないよ。生まれ変わりたい。そう思って、気づいたらフェンスのぼってた。電車、轢かれなかったけどね。めっちゃくちゃ怒られた」
あっくんは他人事みたいに続けた。
まるで昔見たありきたりな結末の映画の話をするみたいに。