でも、さわりたかったよ

「ねえ、真帆。あのフェンス見た?」

黙って首を横に振って、しょうもない嘘をついた。



「僕あれから見に行ったんだけどさ、あそこのフェンス、侵入禁止の強化っていって、倍の高さに建て足されたの。でもね、下半分はこれまでのまんま、錆びたフェンスなの。まるまる新しくされてんじゃなくて、下は古いままで、上だけが新品。あまりにちぐはぐで、見た時吹き出しちゃった」


ジョキン。今度は瞼の前で音が鳴る。


あっくんの息がかすかに顔にかかる。



「要はさ、みんな、強さを付け足しながら、生きてるんだよ」



自分の口よりも近い位置で、優しい声が聴こえる。



「だから真帆も、付け足そう?最初からやり直すのは無理でも、付け足し付け足しで、強くなろう」

さっきよりも眉間に力を入れて、瞼が震えそうになるのを誤魔化した。けれどきっと、あっくんなら気づいている。


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