でも、さわりたかったよ
「このぐらい、余裕で越えられるよね」
あの時、あたしはフェンスに両手をかけて、ひょいっと体を持ち上げた。
「マジ、おてんばってお前のためにある言葉だよな」
あっちゃんはお寿司屋さんのバイト着を隠そうとパーカーの前のジッパーを上に上げながら、呆れたみたいに笑っていた。
あたしは突き抜けるように青い空に向かって、ぐんぐんと体を持ち上げた。
両腕をいっぱいまでつっぱって体重を保ち、真上を見ると、空が面のまま降ってくるように青が迫った。
「あぶねーからやめろ」
さっきよりも強めの声色だった。
でもあたしは青が落ちてくるのを待っていた。
飛行機雲が青を割くみたいにじわじわと、縦に線を描く。
「ラッキー、パンツ見える」
ぼそっと呟くのが聴こえた瞬間、あたしはモモンガみたいな大ジャンプで飛び降りた。