でも、さわりたかったよ


「なんで2年なっても靴箱一番奥なんだよ。なあ?」



頭の上で声がして、驚いて顔を上げると、「あ、ごめん」と再び言葉が降ってきた。


だれ?


柔らかい髪が揺れて、にっこり微笑む細身の人。
それが先輩を初めて見た瞬間だった。


「間違えた。知り合いかと思った」


その人はからからと自分で笑いながら、ぺこっと頭を下げて靴箱に手を伸ばした。

2年1組。靴箱の列は1年7組と2年1組だけが奥まった場所に隣り合っている。



「1年生?」



そんなに近くで男性と顔を合わせたことがなかった私は、ばくばくと暴れる胸を抑えられないまま、こくこくと頷いた。


その人は上靴のかかとを踏んだまま、ふっと笑ってじゃあねと言った。



半袖シャツの胸元をぎゅっと掴む。
いつもより3倍くらいに心臓が膨れ上がったように、胸の中は狭くて、痛い。

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