綾川くんが君臨する

──わたしの悪い癖。

心の声が、うっかり漏れてしまうこと。


「イノシシちゃん、なんか言った?」


綾川くんの声に、はっと現実に引き戻される。



「っあ、えーと、その桃ジュース飲みたかったなあ〜って、言った、かも」



口から出まかせだったけど、限定100本の高級桃ジュース、やっぱり飲んでみたかった。


でも、綾川くんの手中に収まっているペットボトルは、もう空っぽ。



「残念でした。人を信じられなかった罰だね」



放送委員じゃないくせに、放送室で一番いい席(ふわふわソファ)に座って、えらそうに。

その言動にすらどきどきするの、もうやめたいよ。


綾川くんが座れば、ところどころ破けた安っぽいソファでも玉座に見える。

そこに君臨してわたしの心臓を支配してくる。


自由奔放で、誰のものでもない綾川くんが好きなのに、ときどき、急に悲しくなるの、なんでだろ。



「……もてあそんで、ひどい」



本音がぽろっと零れた。

同時に、あろうことか、じわ、と涙が滲んだ。
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