綾川くんが君臨する
概要3. 二人きりのときは容赦がない
𖤐ˊ˗
「黒鐘さん、なんか落としたよ」
休み時間。
トイレに行こうと席を立った直後、爽やかな声に呼び止められた。
振り向くと、後ろの席の風間くん──生徒会役員を務める優等生──が
屈み込んで、何かを拾い上げているところだった。
……あ、わたしのポケットティッシュ。
「はいこれ」
「うわあ、落としたの気づかなかった〜、ありがとう」
「いいえ〜」
すると、それを差し出しながら、風間くんがなぜか唐突に吹き出した。
……えっ、なに?
「“近所のイケメンと出会い放題やり放題♡”……、あはは!」
「?」
爽やか硬派で人気を博している風間くんが、今、なんかとんでもないことを口走ったような……。
わたしはぽかんと相手を見上げて、それからティッシュに視線を落として。
「っ! あ、〜〜〜っ!」
目にも止まらぬ速さでポケットに仕舞い込んだ。
風間くんが読み上げたの、ティッシュ裏の広告だ……っ。
この前繁華街で受け取った、出会い系アプリの催促用ポケットティッシュ!