綾川くんが君臨する
「どうした、来ねーのー? 星くんがせっかく労ってあげるって言ってんのに」
「うぐ……」
「黒鐘の好きな桃ジュースも持ってきた」
ほれ、と自分の隣をぽんぽんと叩いてみせる綾川くん。
甘い響きに流されそうになるけど、ここは頑張って目を逸らした。
綾川くんの言う『労る』は、『いじめる』と同義なのだ。
「うぅ、その手には乗らないから〜……。今までの悪行忘れてないからね、お疲れ様って渡してきたドリンクが激苦青汁だったりとか」
「あのときの顔は傑作だったね」
「背中をさするフリして『家に猫がいます』とかいう意味わかんない紙を貼ってきたりっ ……」
「黒鐘ぜんぜん気づかなくて、クラスメイトに笑われてたのおもしろかった」
ちっともおもしろくないよ。
友達に『せ、背中……っははは!』って爆笑とともに指摘されたとき、顔が燃えるくらい恥ずかしかったんだからね……。