綾川くんが君臨する
恥ずかしさのあまり景色がぐるぐる歪んで見えてくる。
「綾川くんここ学校だよ」
「うん」
「しかも、外……で、」
「うん」
「誰かに見られたらとんでもないよ……、……ねえ、聞いてるの?」
「うん……全部わかってるよ」
なだめるような優しい声に、もうおかしくなりそうだった。
「へーき。おれが黒鐘の大事なところを他の奴に見せるわけないでしょ」
「……へ……?」
「前後左右、あと校舎からここを見下ろせる範囲に人影はないし、もし誰かいてもそいつの存在ごと消しちゃうから大丈夫」
言ってることはめちゃくちゃだけど、「ね?」と綺麗な顔で微笑まれたら、もう素直に頷くことしかできなかった。
さっきの怒りオーラはどこへ行ったのか。
いつの間にかご機嫌を取り戻したらしい綾川くんは、わたしのシャツのボタンを丁寧に留めていく。
いったい、何だったんだろ……。
留めてもらいながら、なんとなく綾川くんの襟元を見つめた。