綾川くんが君臨する
今度こそ、何言われても振り向かない、応じない。
心に決めて、再び機材のスイッチをオン。
ピンポンパンポーン、のチャイムを流して声を乗せる。
『空手部からのお知らせです。事前に告知があった通り、体験入部を明日、16時から道場にて行います。希望される方は──』
放送中やたらと綾川くんの視線を感じながらも、なんとか噛まずに言い切った。
ふう、と息を吐いて下校のBGMに切り替える。
「──で、あの、綾川くん。用がないなら帰ってくれないかなあ……?」
この言葉を投げかけるのも、もう何度目かわからない。
スマホに『放』とだけ連絡が来て。
走って向かったのは、終礼の時間が押して、放送当番に遅れそうだったからでもあるけど。
やっぱり好きだから。
会いたかったから。
「用はある。いつも言ってんでしょ、お前の放送を見守りに来てる」
「そんなの頼んでないです、」
「黒鐘のやさしー声好きなんだよね。ここに来れば一番側で聴けるし、おれの特等席」