綾川くんが君臨する
「うん。なんか朝起きたらイガイガしてて」
「たしかに、声が少し枯れてるかも」
「う……やっぱり」
「熱とかは大丈夫?」
そう言って、ぐいっと顔を近づけてくるから、一瞬、焦点が合わなくなって視界がぼやけた。
──難なくキスできる距離。
「っ、あ、の」
「──、あ、ごめん黒鐘さん! 妹にいつもやってるから、つい癖で」
「妹、さん?」
「そう。よく熱出すから、こう、額をくっつけて確かめる癖ついちゃって」
あ〜、ね! なるほどね!
妹思いの優しいお兄ちゃんの癖が出ちゃったわけだ。
キスされるって勘違いするなんて……わたしのバカアホマヌケ。
「熱はないと思う。心配してくれてありがとうっ」
「そっか。早く良くなるといいね。じゃあ、のど飴ありがとう」
にこやかにひらひらと手を振って去っていく様子はまさに王子様。
見送ったあと、ほんの少しだけ悪寒がした。
クラスの女の子たちがわたしを見てヒソヒソ言い合ってたから、たぶん、そのせい。