綾川くんが君臨する
わたしに抱きついたまま、ユナちゃんの視線だけがそちらに移動する。
「えっと、ユナちゃん知ってるの?」
「いや知ってるっていうか、2年に“アヤカワ先輩”っていう浮世離れしたイケメンがいるって入学時から噂になってて〜、お顔は存じてなかったんですけど、見た瞬間ピーンときましたっ」
「な、なるほど……。彼がまさに綾川先輩で合ってるよ」
「やっぱり⁉ すごーい!」
認知度の高さに改めて感心していると、間もなくしてユナちゃんのつま先が綾川くんに向いた。
「綾川先輩はじめましてっ。私、放送委員1年のユナって言います!」
「はあ、こんにちは」
「今話してた配信、よかったら見に来てくれませんか? あ、スマホでリンク送るので、連絡先を……」
「無理。今から女と用ある」
スマホに視線を落としたままろくに相手を見ようともせず言い放った綾川くん。
「え?」と、ユナちゃん同様に声が出そうになった。
固まるユナちゃんに向かって、綾川くんはさらにもう一言。
「あと、おれ当番押しつける女嫌い」