急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!
◇◇◇

(…⁉何?コレ!︎)

恐怖に染まった亜里砂の瞳が見開かれた。

(どうして⁉︎接近禁止って…言ってたのに!)


かつての婚約者が、亜里砂の口や鼻を大きな手で塞ぎ、その体を非常階段の踊り場の冷たい壁に、強い力で押し付けている。

大きく目を見開く亜里砂の体が、爪先立ちになってぐらぐらと揺れた。


「君があの日…結婚式まであげておいて、あっさり俺を捨てたのは…俺よりもっと格上の…一護の御曹司のような男を捕まえるためだったんじゃないのか…?」

池澤が、亜里砂の鼻先に自分の鼻がくっつく程の近距離で睨みつけて言う。

「うう…」
(この人は…いったい何を…?)

亜里砂が何度も小さく首を横に振ると、「大声を出すなよ…」という声と共に、鼻と口を一緒に塞いでいた大きな手が漸く少しだけ離れた。

「ぷはっ!…捨てたなんて…いったい何を仰っているのか、私にはさっぱりわかりません。
あの結婚が駄目になったのは、全て貴方と三吉涼香さんの事情だったじゃないですか⁉︎
この間も言った通り、私が貴方を捨てたんじゃないわ。貴方が私を裏切ったんですよ。
ましてや一護の若様とは、一切何の関係もありません!」

そう、たとえ三吉涼香に嵌められたのだとしても、亜里砂という婚約者が居ながら、彼女と関係を持ったのは、紛れもなく池澤の意思だった。

そう思えば、怖いより怒りが勝つ。

「何度も言いますが、それもこれも、全て二年も前に終わったことですよ。今更こんな風に、私と貴方が関わる必要なんて無いでしょう」

「ふんっ、君だけが勝手に終わらせた気になっているんじゃないか。俺の方はまだ終わってはいない」

「は⁉︎」

「君も知っている通り、社長の弟とはいえ俺は愛人の子だ。
あんな正統派御曹司と比べたら…そりゃ格段に劣るよなぁ。
君、いつからあの男と付き合っていたんだ?
俺をあんなつまらない嘘吐き女に、さっさと押し付けておいて…。
都合よく俺みたいな妾腹の男と別れられて良かったと、二人で笑い合っていたんじゃないのか?」



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