急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!

「そこには嘘も飾る言葉も無く…彼の私への想いが溢れていたから…」

(たぶんきっと…それだけじゃない。私の何かが彼にハマったように、若様の何かも…現在の私にちょうどハマったんだ)

「若様は、二年前のことを話した時も…私の話を無条件で信じてくれたし、恋愛や結婚なんて二度としたくないと思っていた私が前を向けるようにと、いろいろ心を砕いてくれました。
それに彼は、最悪な出会いの時に私が言ったことをちゃんと真剣に考え…変わりたいと言ってくれたし、実際短期間で驚くほど変わりました。
そんな人…好きにならずにいられるわけが
ないでしょう。
出会いは最悪だったけど、私は今、彼のことが好きなんです!たぶん」

(何か文句ある⁉︎)


池澤はそんな亜里砂を呆然とした顔で見つめていた。

「池澤さん…。私が貴方を愛していなかったのに、二年前、流されるままにせよ、貴方と結婚して一緒に生きていってもいいのかなと思ったのはなぜだかわかりますか?」

「⁉︎」

「あの頃の貴方を、私は心から尊敬していたんですよ。部署が違うから、残念ながら私がクビになるまで同じプロジェクトを手がける事はありませんでしたが、入社以来、そこかしこから耳に入る貴方の仕事ぶりに、私はとても憧れていました。
だから…一緒に暮らすうち、憧れが愛に変わる日もいつか来るかもしれないと結婚を了承したんです。」

「!」

「池澤さん…お願い。
私は先程お話ししたように、この先のことはどうなるかわかりませんが…今(たぶん)恋をして…既に新しい道を歩き出しています。
貴方が仰った『お見合いババア』のお仕事も、やってみたら結構性に合っていたようで楽しく、やり甲斐もあって、私なりに充実した日々を送っています。
だから貴方も、いつ迄も私に拘らず、誰かと新しい恋をして仕事に励み、私が憧れた以前の貴方のように…また輝いて下さい」

お願いします…と亜里砂は池澤を正面から見つめ、小さく頭を下げた。

池澤はしばらく視線を彷徨わせ、かつての自分を思い出すかのように遠い目をしていたが…。
やがて俯き、首を何度も横に振り、絞り出すようにして言葉を吐き捨てた。



「もう…何もかもが遅いっ!」

「遅くなんてないわ!」

「いや……遅いんだ!」

池澤の瞳が潤みだし、鼻をすんと啜りながら吐いた声は小さかった。


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