急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!

会社の思惑通り、そこに配属された者は数日…もって数ヶ月でみんな自主的に会社を辞めていくため、その部屋の席が全部埋まったことは、未だかつてないと噂されている。それくらい神経がやられ出入りが激しい所なのだ。

亜里砂の場合は三吉涼香が自殺未遂をはかった責任をなすりつけられ、問答無用で辞めさせられたのだが、あの時弁護士を立てるなりして、もっとごねて退社を渋っていたら、きっとそこに送り込まれていたに違いなかった。


「どうして…?営業トップの成績だった貴方をあんなところにやるなんて!社長はいったい何を考えているの⁉︎」

「どうせ二年前にあの女と支社に飛ばされた時から、そんな肩書きなんて地に落ちてしまっているさ…」

「でも!」

「今度、俺はそこの室長になった」

「!」

「僅か数日や数ヶ月で辞めていく部下を、何もせず何も言わず、一日中監視しておくのが俺の次の仕事だ」

「そんな…!」

「社長と会長の命令で…俺が定年を迎える日までずっと、だそうだ…」

「…っ!だったら!あんな会社、いっそのことすぐに辞めてしまえばいいわ!どうせ独立するつもりだったじゃないですか。貴方だったらきっとどこに行ったって!」

「出来ない…」

「なんで!」

「自主退職することは許されていない。定年まであと二十年以上。ずっとあの会社の地下で、仕事もさせず俺を飼い殺すことが…俺が一護の後継に多大な迷惑をかけ、三吉涼香のような性悪女に引っかかり、会社や家名に泥を塗った事に対する罰なんだそうだ…」

「貴方のお父様やお兄様だって、三吉涼香さんに騙されて、随分踊らされていたじゃないですか!貴方一人の責任じゃないわ!」

「あの女に取られた金を、会長と社長が全て肩代わりして会社に返還し、忌々しい俺の顔を、あと三十年近くも見続けていかなければいけないことこそが自分たちへの重い罰なのだと言われたよ。
それに俺が従わなければ、会社の金を流用した事に何倍ものありもしない罪を足してから警察に突き出す、とも言われているんだ…」

「!」

(そんなの酷い!この人は自業自得とはいえ、三好涼香さんに騙されて全てを奪われてしまったいわば被害者じゃない!会社のお金に手をつけたのは大問題だけど、警察に捕まっても、三十年も人生を無駄にしなければいけないほどの罪じゃない。
それに…一護の若様に迷惑をかけた罪って…若様だってこんな結果、絶対に望んでいないわ!)

「財産を全て失い…独立をしようと一緒に準備していた仲間達も、一人残らず俺の元から去って行ってしまった。ずっとこんな風に、糞みたいな身内に飼い殺されて生きるくらいなら…警察に捕まって刑務所に入ってしまった方がよほどマシだよな…」

池澤は昏く嗤う。

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