急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!

「腐った女に何もかも奪われ失って…親や兄に塵同然に扱われ…支配され…馬鹿にされるばかりの…苦しみしかない…こんなくだらない人生を…俺はもう、いい加減リセットしてしまいたい…」

「え?リ…リセッ…ト?」

「ああ。それでもやっぱり一人では寂しいじゃないか。だからそこに愛する亜里砂が先に居てくれれば心強いと思って…」

「⁉︎」

「俺もすぐにそこに逝くから…。だから亜里砂は先に逝って、そこで俺を待っていて欲しいんだ…」

「え…?どこに?いったい…どういう…?」

「誰も奪えない所に君を連れて逝ってしまえば…。
俺は…一護の…あの男にも勝ったことになるよな…」

池澤は心底嬉しそうに歪んだ嗤顔を浮かべた。

「そうしたら、君はずっと…ずっと俺のモノだ。そうだよ…あんな男になど絶対に渡してたまるか。君は俺が連れて逝く」

(何を言っているの⁉︎)

池澤の手が亜里砂の首に伸びてきたところで、亜里砂の殴られて混乱しきっていた頭が、ようやく正常に働き始めた。


(逃げなきゃ!)

「い…いやっ!嫌だ!嫌っ!誰か!助けて!……若様っ!」

叫びながら背を向けて逃げようとする亜里砂に、池澤の手が容赦なく伸びる。

「逃がすかっ!」

「痛っ!」


すぐに髪を掴まれて引き倒され…馬乗りになられ、喉元を両手でギリギリと締めあげられて目が霞む!

(これは駄目なやつ!本当にやばいやつっ!)

階段にゴリゴリと押しつけられている背中が痛い!
引き倒された時にガツンとぶつけた頭もズキズキと鈍く痛む。
先程殴られた頬も熱い。
が…それ以上に苦しい!苦しくてたまらない!

「くっ…ぅうっ!」

「君が全部悪いんだっ!俺を好きになってくれなかったから!俺を愛してくれなかったから!」

池澤は端正な顔を歪めて、泣きながら亜里砂の首を締め続ける。
ポタポタと、涙がいくつも亜里砂の顔に溢れて落ちた。

「大丈夫、すぐに俺も逝くからっ!」

(何が大丈夫よ!そんなのっ!全然…嬉しくないっ!)

亜里砂はもがき、渾身の力を込めて池澤の手を外そうとするが…その手が緩む事はない。
逆に絞めつける力はどんどん強くなった。


(くる…し…息が…もう…ダメ…だ…。いっぱい…おもいのこすこと…いっぱいあるのに…)

このままここで死んでしまったら…。

(そうだ…あれ…
冷蔵庫の中の…昨夜の半額のお刺身の残り…誰が処分してくれるんだろう…。
外国にいるしばらく会っていない家族たち…?じゃ無いよね…?
きっと美幸さんだろうな…。どうしよう、また迷惑かけちゃう。けど…できれば匂い出す前に気づいて欲しい…。
あとは…ああそう…おとといお隣の田中さんからお裾分けをもらった時のタッパーを返しそびれちゃった…。美幸さんに部屋を片付けてもらうにしても、あれ田中さんのタッパーだってわかんないよね。今度のお休みに返そうと思ってたのに…。きっと処分されちゃう。ごめんね、田中さん…。せっかくお引っ越し以来仲良くしてもらってたのに…)

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