急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!

渾身の亜里砂の抵抗がじょじょに弱まっていく。
あまりにも苦しくて頭の中に霞がかかったようになり、家族や美幸や…ご近所さんの顔までが次々に浮かび…苦しさから現実逃避するようにグルグルとくだらないことばかりが過ぎる。

(ああ…これが世に言う走馬燈のように浮かぶ…って言うあれ…?)

いっそのこと…意識をこのまま飛ばしてしまえば…これ以上苦しまずにすむのか…。


(若様…苦しい…助けて…。

そういえば…
前に…私のこと…一生守るって…言ってくれたのに…。

若様のバカ。今よ!今守ってくれなくちゃ駄目でしょう…。

でも…好き…。あの人が好きなの…たぶん…。

そうね。きっと…今なら…いえ…る…きがする)

最期に浮かぶのは俺様で横柄で…強くて弱くて…器用で不器用で…優しい…格好良くて美麗な彼の顔だった。


(わかさま…。どうせ…こんなところで…死んでしまうのだったら…たぶんなんてつけずに…自分のきもちにすなおになってみても良かったのかもしれない…

あの人と…目に見えない『愛』というものを…いっしょに探してみたかった…

きっと…わたしたち…言いたいことをいいあって…
ときどきけんかもしながら…やめるときもすこやかなる時も…あんがいなかよく…わらっていっしょう…ともに…いきていけるような…きがするの…。

…わたしが…若さまのごりょうしんの分も…彼のそばで…いっぱいいっぱい彼をあいして…彼がえられなかったというあたたかいかぞくを、いっしょに作ってあげたかった…

でも…いまさら…こんなときに…こんなこと…どんなに思っても…もうおそ…い…よね…

いつも…きづくのが…おそすぎる…にねんまえも…そしていま…も…

わたし…は……)




とうとう亜里砂の手から力が抜け、パタリと床に落ちた。
バタバタと懸命にもがいていた四肢も動かなくなる。


(…わか…さま…)


…亜里砂の目の前が白くなり…くるんと意識を失う間際。


『亜里砂!馬鹿!この恋愛オンチのポンコツ女!何諦めてるんだ!
俺が絶対にお前を守るから!負けるな!もう少しだけ頑張れ!』


死の直前で頭の中に…胸が震えるようないい声が突然響いた!


(…っ!空耳なのに、この口の悪さ!さすが若様。
でも…やっぱり嫌!やっと人を愛するという事がわかりかけてきたのに…こんな馬鹿馬鹿しい人生の終わり方は絶対に嫌だ!こんなところで…こんな…哀れで自分勝手な男に負けてたまるもんか!)

力無く床に落ちていた亜里砂の指がピクリと動いた。


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